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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)1226号 判決 1950年9月16日

被告人

鈴木長蔵

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

原審に於ける訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人高井貫之の控訴の論旨第二点に就て。

原審引用挙示の各証拠によれば、原審に於て援用した追起訴状記載の第二の事実に就ては、被告人は真下一男の依頼により自動車修理代金四万二千二百六十一円を集金して之を保管しながら依頼者たる右真下一男に返還しないこと、並に右金員の中一万六千円位を自己の借金の返済及び遊興費等に費消横領したことを明認することができるが残余の中二万円位は遊興の途中遺失したと弁疏した記載があるので此点に就き考察するに司法警察員作成の被告人に対する第二回以後の各供述調書の記載に依ると、被告人は司法警察員に対しては右金員を全部遺失した旨の供述をしていたが副検事作成の被告人に対する第二回供述調書の記載に依ると、被告人は副検事に対しては右金員の中合計一万六千円位を自己の借金の支拂、遊興費、其他に費消したことを自白し、内二万円位を遺失した旨供述するに至り、犯罪の一部を自白するに至つたものであるが、原審第四回公判調書(記録八十五丁)の記載に依ると、被告人は右遺失の事実を大門派出所に届出た旨供述しているが、右大門派出所巡査福井勉作成の事実調査方の件照会について復命と題する書面によると右届出の事実がなかつたことが認められる。依之看之、被告人の右遺失の弁疏は輙く措信し難く、従つて所論西部理吉の上申書及び原審第四回公判調書中証人真下一男の此点に対する供述記載(記録七十七丁裏)に就ても、当時被告人は右西部、真下等に対し、遺失した旨虚言を弄していたものと認めるの外は無い。依つて按ずると苟くも他人の金員を預り保管中その一部を横領費消し、且つその全部につき返済せない事実が認められる以上、残余に就ても横領の推定を受けることは当然であつて、加之該遺失の事実に対する被告人の弁疏が全然立証せられず、剰へ被害弁償に就き被告人は自己所有の家屋、畑等を売却して之に充てるつもりであると陳述する(記録八十八丁裏)関係に於ては右の推定は殆んど動かないものと看るべきである。従つて此点に関する原審の事実認定には何等の違法がない。

(註 本件は事実誤認に依り破棄自判)

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